「タイス瞑想曲」のバックグラウンド

私が昨年METライブで見たオペラ「タイス」では第1幕が終わって余韻が残る中、幕が閉った状態でオーケストラボックスの中でコンサートマスターの中国人男性が立上がりこの美しい曲を弾いていました。

 

タイスは78世紀のアレキサンドリア(現エジプト)1の美女でビーナスの巫女をしており、1週間毎に有力者と愛人契約をする高級売春婦でもありましたが、砂漠にある修道院に「タイスを救って連れてくるように」との神のお告げがあり、一人の修道士がタイスを救いにアレキサンドリアに向かいます。

 

タイスは何不自由なく暮らしているので修道士の言葉を軽くあしらっていましたが、何回も宗教的なアタックを受けて迷い不安になり始めます。第1幕はタイスが一人でベッドの上でまどろみながら迷うシーンで終わります。

 

「タイス瞑想曲」はハープ伴奏で弾く美しいメロディーのバイオリン曲(5分)ですが、曲が終わるような、また始まるような優柔不断で微妙なエンディングが特徴です。これはまどろみながら迷っているタイスという第1幕のバックグラウンドが曲の背景にあればこそだと感じます。その後コンサートやCDでこの曲を聴いてもMETライブ時のような美しさを感じるには至りません。フィギュアスケートのアイスダンスなどには最適の曲ではないでしょうか。

 

2006年トリノ・オリンピック:女子フィギュアスケートで金メダルに輝いた荒川静香選手が後半のフリーの演技で逆転した際に使った曲が1926年トリノ初演のプッチーニ作曲のオペラ「トゥーランドット」中の「誰も寝てはならぬ」という曲でした。

 

中国皇帝の娘で美しいが冷酷非情なトゥーランドット姫の出した謎を解いて約束通り姫を嫁にもらうことになった逃亡中の隣国の王子は、嫁に行くのを嫌がる姫に「夜が明けるまでに私の名前が分かったら約束を果たさなくても良い」といい、姫は男の名前を調べさせるため家臣に「誰も寝てはならぬ」と命じるのです。

 

しかし、嫁に行くのを嫌がったトゥーランドット姫の冷たい心も次第に男の気持ちに溶け、「夜明けまでに名前が分からなくても構わない」方向に変化し始めていく状況をこの曲は表わしている面もありそれがこの曲のバックグラウンドだと感じます。

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コメント: 1
  • #1

    山内義昭 (水曜日, 30 11月 2022 17:45)

    タイスにしてもトゥーランドットにしてもこのような歌曲を心行くまで楽しめる世界でありますように、心より祈ります❗

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